蜘蛛の糸

経済情勢の激変を受けて雇用環境がいま大変な事態となっている。
企業によるリストラが非正規雇用者を直撃し、その大波は次には正社員まで及ぼうとしている。
この年の瀬に突然契約を打ち切られ、寮から追い出され絶望の淵に追い込まれる人がいたり、解雇された派遣社員の方が労働組合を結成し団体交渉を行う姿などが毎日ニュースで報道されている。
効率化や合理主義に疾走したせいか、この国は本来持っていた日本的経営の良さを失くしたのかもしれない。

また雇用形態や就業構造の変化に対応したセーフティネットの整備が遅れていることは確かだ。
ここにきて労働諸法令の改正や制度の見直しの動きが出てきているが、その対策が遅れてきたことがあらためて露呈された。
所謂セーフティネットから救いきれない人が抜け落ちていくのをみて、国の政治とはいったい何だろうと考えざるを得ない。
いざという時に頼りにならなくて、何がセーフティネットといえよう。

非人間的なやりかたを見て、私は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い出す。
地獄の罪人のカンダタは自分だけが救われようとして「この蜘蛛の糸は俺のものだ。お前達は一体誰に聞いて上ってきた。下りろ、下りろ」と喚いている。
でもやがてその災いは結局自らにも降りかかるのだ。
地獄から助け出そうとした蜘蛛の糸のように、少しながら心ある支援の取り組みが行われようとしていることがせめてもの救いである。